退屈な時間は嫌いだ。
「笠木(かさぎ)くーん。」
俺、こと笠木広人(ひろと)は、高校の無駄に長い廊下を歩いていた。なんのことはない、自分の教室に向かってるだけだ。
「笠木くん笠木くんかっさぎくーん。」
背後からかけられる呼び声は極力無視。振り向いた時には大抵よくないことが待っている。
月曜の朝というだけでかなりだるいのに、これ以上の手間は…
「ていっ!」
背中をなにか鈍器のようなもので小突かれる。しょうがなく振り返ると、そこには笑顔の少女がいた。
日下部佳奈理(くさかべかなり)。高校に入って知り合った、所謂クラスメイトなのだが、今はちょっと後悔してる。つまりは知り合ってしまったことを。
「なぜ返事をしませんか。」
形のいい眉を無理矢理に吊り上げて俺を見上げる。力の入れ過ぎでおちょぼ口になっている。
「…どーせまた、なんか変なもんでも見つけたんだろ。」
「また、てなんですか。私は変な物なんて見つけたことないですよ。」
その手には、木の枝が。見た目からすると流木か。
「校内に鈍器に成り得る物を持ち込むのはどうかと思うぞ、日下部。」
やっぱり変な物じゃないか。
「あ、ここ見て。断末魔、て感じじゃないですか?」
指差した箇所には、そう見えなくもない模様があった。だが常人なら真っ先に思い浮かべるのは叫びの絵だろう。
「暇に任せて川に行ったらこんな物見つけました、今週はいい予感。」
…この女、暇人なのである。筋金入りの。さらに言うと、暇潰しに命をかける変人。
俺が関わった顛末は、教室で暇そうに見えた俺を自らの暇潰しに無理矢理誘い込んだ、という単純なものである。まぁ実際暇してたけど。ついでに言うと、その日は廊下を水浸しにしてモップをかけた。その後用務員のおっちゃんに飴玉貰った。
「そりゃ良かったな、今度は顔っぽい小石でも見つけるといい。」
…失言だった。
「おぅ、ナイスアイディアだよ笠木くん。じゃ、放課後にでも河原へ行きましょう!」
「待て、なんで俺が。俺はそういう怨念めいたものは…」
むしろ妙な模様の石探しなんて子供染みた真似したくない。
「河原に小石がどれだけあると思ってるんですか。いくら時間を持て余してると言っても一人でチェックできる総量には限りあります。分担しましょう。」
日下部はさっさと教室へ入ってしまった。
いくら暇だと言ってもそんな時間の使い方はしたくない。