河童?
「すまねぇ…天馬…」
ずぶ濡れの幸司が天馬に頭を下げた。
「まったく…河太郎がいなかったらどうなってたことか」
幸司は川に落ちた後河太郎に中流まで運ばれてきたのだった。河太郎が幸司の隣で笑った。
ほぼ半日かけ三人は上流までたどり着いた。幸司はずぶ濡れのまま、天馬は頭から血を流したままで二人の疲労は限界を超えていた。
「河太郎!」
上流の川から河太郎を呼ぶ声がした。
「ねーちゃん!」
川から現れたのは美しい少女だった。よくみると頭に皿があり手足に水掻きがあった。
「河姫か…」
河姫…河童の女性版ともいうべき妖で、若い男の精気を吸い取ると云われている「河太郎の姉の未姫です。弟がお世話になりました」
未姫は丁寧に頭を下げた。
「いや〜そんなことないですよ」
幸司がデレデレした口調で答えた。天馬は幸司の脇腹をつついたが効果はなかった。
「あの…こんなものでよかったら…どうぞ」
未姫は恥ずかしそうに瓢箪を取り出した「これは?」
「自家製のお酒です。お礼だと思って受け取ってください」幸司が瓢箪を受け取ると二人は再び礼を言って川へ帰っていった。
「俺達も帰るか」
「ああ…早く帰って一杯やろう」
未成年の幸司が瓢箪を見ながら言った。そうして二人は清沢川を後にした。
二人が清沢川を去った後、中流の焼き殺された巨大河童を観察する影があった。夜の闇に紛れ、その姿は曖昧だった。
「失敗か…まだまだ研究の余地があるな…」
影はそういうと冷ややかに嘲い、闇の中に消えた。
河童 終