「春日…春日にとっては良いことかもよ…」
雅が俺を追い越しながらいった。
雅は歩く俺の手を引いて急がせた。
カノンとは全く違うその手の感触に俺は過去をみた…
「拓海。」
母さんが正門の外灯の下に立っていた。
その手には俺のほぼ空に近い鞄があった。
「母さん。どした?」
「拓海。今すぐ帰るわよ」「…ちょっ、帰るわよって…」
「今日は早退しなさい。今から病院にいくから。」
俺にはなにがなんだかわからなかった。
ぼーっとした頭がタクシーを認知したが、体はうごかなかった。俺は雅に視線を移したが、何か問いかける前に車の中に押し込められた。
「みや…雅!」
「お幸せに〜」
雅は結局俺に答えを教えてはくれなかった。
「雅君、まだ女の子みたいな話し方のままね。」
母さんが隣でぽつりと言った。
雅は俺と同い年の男だ。
雅も2年前恋人を亡くした。
その時も事の始まりは雅の恋人、小春さんの失踪だった。
小春さんは捜索開始から3ヶ月後に遺体となって発見された。
原因は散歩途中の心臓麻痺だった。
小春さんを亡くしてから雅は女言葉になった。
その理由を雅は詳しく話さない。
だから俺も聞かない。