橋本さんは二十代の頃、よく彼氏とドライブに行ったそうだ。
「彼はドライブが好きでね、私も好きだったから翌日に仕事があってもよく出掛けてたの。」
だがその日は、いつもより遠くまで出てしまった。
橋本さんは、朝に間に合わなくなるかもしれないから引き返した方がいいんじゃないか、といったが
彼は大丈夫、大丈夫、と言って更に車を走らせた。
しばらくすると、横に海が見えた。
「行ってみようぜ」
え〜何か不気味だよ ?
と言ってみたが、夜の海なんてロマンチックじゃんと笑って、乗り気じゃない橋本さんを車から下ろしたのだった。
も〜……と言いながらも、そんな強引な彼を橋本さんも憎めなかった。
しばらくして、あっ……と橋本さんは立ち止まった。
これ…………
そこには一つの古びた看板が立てかけてあった。
字が見えにくくなっていたが
“立ち入り禁止!多数の行方不明者が出ています!”
と書かれてあった。
橋本さんは急に体温が下がった感覚を覚え彼に、帰ろうと言おうとした。
……言おうとしたが
彼は覆面の人達に取り押さえられていた。
彼はこっちを見て
首を横に振りながら、顎を細かく突き出した。
俺はいいから早く逃げろ。
と言われた感じがした。
だが、彼女も背後にいた覆面の人達に連れて行かれてしまった。
ん……
どれくらい寝ていたのだろう。
見れば彼も起きていた。
周りにいる奴らは目をギラギラさせて、2人を見た。
手にはナイフやライターを持っている。
私…殺されちゃうのかなぁ
橋本さんはぼんやりと考えていた。
無意識に涙が頬をつたっていた。
すると、1人の高齢者がこちらに来た。
リーダー格らしげなその男は橋本さんを見るなり
「死にたいか」と言った。
橋本さんは必死に首を横に振った。
「では仲間に入るか?」
それにも首を振った。
殺してしまえ!と言う声が周りから聞こえた。
高齢者はみんなとしばらく話し合い、不満らしげな顔をする人達を横目に
今回は見逃してやる。そして小さな声でもうここへ来てはいけないよ……
と言って縄を解いてあげた。
「しかし何でその人は助けたんだろうね」
「…縄をほどく時にね、娘に顔が似てたんだ、って……出身も同じだったの」
そしてポツリと
お母さん方の祖父…昔出て行ったきり行方不明らしいの…
橋本さんはその時の彼と結婚している。