中野さんは、公園内にある噴水の水をペットボトルに入れ「その生き物」に差し出した。
ありがたや、ありがたや………と、しゃがれた声でお礼を言われると
何だかおじいちゃんと話してるみたいで嬉しかった。
水を飲み干したら、お礼をせんとな……と言って中野さんに
「目か耳か鼻か…どれがいい?」
「え?」
中野さんは、私は話が理解出来るような頭が欲しい、と言ってみた。
ふむ……
「じゃあ目をあげよう。みんなには秘密にしなきゃダメだよ」
中野さんはうん、と言った。
―…その瞬間、ぱっと光ったように見えて
気付けばあの生き物はおらず、お父さんが塾の時間だと公園に迎えに来ていた。
塾へ向かう途中、嫌だったらママに言っておくからいいんだよ、と言ってくれたが中野さんは大丈夫だと答えた。
何故か平気な気がしていた。
その日
中野さんは驚くべき体験をした。
先生がチョークに書いたこと喋ってる内容の言葉が宙を舞い渦巻き状になるのだ。
そしてぱっとすぐに消えた。
時間はほんの一瞬だったみたいだ。
その日の少テストで初めて中野さんは百点を取った。
「凄いね。渦が消えると、もう頭の中に入ってるの?」
「ええ。それからずっと。簡単に言えば瞬間記憶能力みたいな感じかなぁ」
でもね、と中野さんは漏らした。
「良いことばっかりでも無いの」
ホラーが大の苦手な彼女は、うっかり怖い話を聞くと一生忘れられずにいて、うなされるのだそうだ。