ああ、バカだなぁ、って思う。
今まで私はいつも、彼氏に甘えてワガママばっかり言って、
そのくせなんでも言うことを聞いてくれる彼氏が不満だった。
もっと、もっと私にいろんなものを望んでいいのに、って。
甘えの裏返しは、構いたがりの心。
今の、優しくない私の彼氏は、無意識的か意識的か、私をいじめるけど
それでも離れられないのは、なんでなんだろう。
「・・・かえる?」
夕陽の光でオレンジ色に満ちた部屋。沈黙を破ったのはあんた。
「そしよっか」
私はのそのそと動いて、ふすまを開ける。
後ろについてくる気配。来たときとは逆だな、なんて思う。
いつも私の前をズンズン歩いていっちゃうのに。
おかしな気分。
勝手口から庭に出て、来た道を二人でゆっくり戻る。
青と橙のグラデーションに染まった空を、鳥が悠々と泳ぐ。
指先が凍るように寒い。
と、後ろにあった気配が、いつの間にかなくなっていることに気づいた。
「・・・あ」
辺りを見回し、何かを片手にこっちに戻ってくるあいつの姿を見つけた。
「なにそれ」
「おでん」
「・・・食べるの?」
「やるよ」
「お金もってないんじゃなかった?」
「ジーンズに500円入ってた」
「ふぅん」
「ダイコン好きだろ」
「好き」
なんとなくわかった。
あいつがいじめっ子で、私がいじめられっ子なんじゃない。
二人ともが、不器用なんだ。
「俺のことも好きだろ」
「好き」
多分ずっと消えない、この関係。
>>終<<