黒の戸張が空を覆いつくし光を頑なに遮る。
新月の夜は、陽の光を反射し暗い世界を僅かに照らす月も無い。
フィーナ騎士団が遠征から戻り、崩れかけた戦線は何とか持ち直すことが出来た。
フィーナ騎士団陣営
「現在の状況はどうなっている?」
一息ついたところでフィンは部下に尋ねる。
「増援の量が多く、当初の予測よりも厳しい戦いが強いられていたようでしたが、我々の加勢により戦況は五分といったところです。現在、モンスターの攻撃はおさまり、周囲を警戒中です」
「モンスター達は何処から来ている?」
「はっきりとは分かりませんが、恐らくはクロノスの特殊能力に依るものではないかということです」
「そうか…。分かった。引き続き警戒を行ってくれ」
「ハッ!失礼します!」
去っていく騎士。
「昼の激しかった猛攻も夜になりピタリとやんだ。騎士団の主力は外にあり疲弊している。首都防衛の為の戦力は微小。そして、クロノスの存在」
しばらく、思案した後。
「嫌な予感がするな」
フィンは立ち上がり、歩き出す。
途中、すれ違った騎士に
「俺は一度首都に元に戻る。何か動きがあれば副団長の指示にしたがってくれ」
「了解しました!」
敬礼をする騎士を後にして、騎馬に股がり首都オリュンポスへ向け走らせる。
馬の嘶く声と、蹄の音が辺りにこだました。
首都オリュンポス北西部
誰も居なくなったホテルの一室で仮眠をとったゼノスは、街を歩いていた。
「止まったな。終わったのか?」
一人呟いた。
「まさか」
しかし、思わぬ返答に緊張が走る。
その場にいたのは、確かにゼノス一人の筈だった。
「誰だ!?」
剣を抜き、周りの気配を探る。
「前座は終わり。ここからが本番だよ。人間」
空間が揺らめき、何もない所から一人の男が現れた。
「リアファルを探し、波動が途切れた場所に来てみれば、まさかお前に会うとはな」
ブラッドバッドのクロノス、ヴァンパイアの眷族。
魔眼のヴァロールだ。
以前、ゼノスに切り落とされた片腕は復元している。
ゼノスは距離をとる。
「リアファルを奪ってどうする?」
ヴァロールはフッと笑う。
「人間は何も知らんのだな。奪ったのはそっちだ。あれは遥か昔、俺達のものだった」
「何?」
「だが、今はそんなことはどうでもいい。お前を殺せる時が巡ってきたのだからな!」