聖夜の優しさに甘えて、今まで私に付き合わせてしまった。
私は聖夜を苦しめてしまう。
海─────
彼方向こうまで広がる美しい海は水面が輝き、さざ波は綺麗な唸りを轟かせる。
桃実は、何も言わない海を見詰めていた。引いては押し寄せ、押しては低く波に何を思っているのか、桃実は無言で海に佇んでいた。
「───……桃実?」
海を見詰めていた桃実の背後から呼び掛ける声が聞こえた。ゆっくりと体を向ける。
「えっう……そ」
桃実が振り返った目の前に黒峯がいた。桃実は動揺を隠しきれず、震えている。
「久しぶり……何年ぶりになるかな。こんな偶然……まさかまた会えるなんて……思わなかった」
黒峯が、苦笑いを浮かべ桃実に話し掛ける。桃実はまだ信じられない偶然に声も出せない程、混乱していた。
そんな桃実に対して、後ろ目た気持ちがある黒峯は哀しそうに眉を潜め、海に顔をむける。
「この海で……昔よく遊んでたね。懐かしくて……見たくなったんだ」
「結婚……」
桃実が顔を強張らせたまま、口だけを動かす。
「結婚するって……聞いたわ」
「──あぁ。聖夜に聞いのか? 結婚すると思う」
「その人……婚約者…ちゃんと愛してるの?」
その質問に黒峯がフッと苦笑いを溢し、悲愴そうに顔を歪める。
「───朱斐様にも同じ事を聞かれた。───好きになろうと、好きになれるよう努力する。と返答した」
「───えっ?」
桃実が黒峯に近づき、腕の裾を掴む。
「好きじゃないの? まだ朱斐ちゃんを……愛してるの?黒峯」
「───俺は……生涯朱斐様を愛し続ける。それは───ずっと変わらない」
「ダメよ!!」
桃実が、黒峯にしがみつくように服を掴む。
「ダメよ! 朱斐ちゃんを好きなまま違う人と結婚なんて!」
「でも……俺は朱斐様の幸せを願ってるからこそ別の人と──」
「見てこの傷」
桃実が裾をまくり、腕の傷を見せた。痛々しく残る傷痕を見せられた黒峯は驚愕する。
「ど・どうしたんだ!? その傷痕」
「あなたが私と別れてくれって言った時……私は……あなたを殺そうとした」
「!!ッ」
「たまたま聖夜が半狂乱になっていた私を見つけてしまって……必死に止めてくれたの…でも私は───」