ヤス#17
割れていた海は濁流と化していた。その濁流幅が50メートルはある。とてもヤスに渡れる物ではなかった。
「くそっ!おそかったか…」
もう崎戸島には戻れない。次に潮が引まで半日はかかる。ヤスは孤立してしまった。島は目の前である。二百メートルも歩けば、自分の島に帰れるのだ。だか、ヤスには手も足も出なかった。水深はまだ1メートルくらいだろう。だが、流れが早過ぎる。流れに飲まれたら、間違いなく溺れるだろう。それは、幼いヤスにも分かっていた。ヤスは漁師なのだ。海の怖さは分かっていた。帰れないとなれば、御床島で一夜を明かすしかない。ヤスは肩を落とした。せっかく、運べないくらいの獲物を手に入れたのに持って帰れない。獲物は一晩で腐ってしまうだろう。ヤスはおのれの欲深さを悔いた。欲を出さずにいれば、難なく帰れたのだ。自分が愚かだと思った。背中に気配を感じた。誰かに見られているような気がしたのだ。ヤスは振り向いた。だが、そこは南竹がざわざわと風に揺れているだけだった。
「野宿するしか無いな…次の干潮は夜明け前だろう。その前には、渡れる位に潮が引くだろうから、それから帰るしかないな…」
ヤスは一人言を言った。