ヤス#18
ヤスは腹を決めた。腹が座ると急に腹が減った。幸い獲物は食べ切れないくらい採った。それを焼いて食おうと思った。マッチはある。ビニールの袋に入れて持って来ていた。
潮がどんどん押し寄せてくる。ヤスは満潮になった時の海面の位置を予測して火をおこした。慣れたものである。火は次第に大きな炎となった。ヤスは磯カギに一番大きなアワビを刺すと、その焚き火で焼いた。サザエも投げ入れる。しばらくすると、香ばしい香りがしてきた。アワビの殻を外すとかぶりついた。
「ウマい!やっぱりアワビはこうやって食べるのが一番だな。ハハハ」
笑ったのは強がりだろう。本当は、島に取り残された事が怖かった。野宿は経験がある。だが、それは家の近所でした事で、しかも、友達も一緒だった。だが、今は違う。無人島で自分一人なのだ。心細くて仕方がない。それもそのはずだ。ヤスはまだ、六歳なのだ。夏の太陽はまだ水平線に沈んでいない。だが、もう一時間もすれば、赤い太陽が五島灘に沈んでいく。そうすれば、暗闇の世界がやってくるだろう。ヤスは太陽が沈む前に両親が船で探しに来てくれはしないかと思った。だが、それは甘かった。