泣けとごとくに

壱戸.  2007-03-25投稿
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スープは冷めるし、氷は溶ける。
全てはもとに戻ろうとする。
それに反発することに、もう疲れてしまった。

でも、氷はもとの姿には戻らないし、スープはおいしさを損なう
でしょう。
もうきっと、だめなんだろうな。
あたしたちは。

「ななきそ、なきそ」

あんまり辛かったので、あたしは小さく呟いた。
彼の弱い笑顔がまぶたに貼り付いて決してはがれようとしない。

泣きそうなのはあたしのほうだった。

どうしようもないことは、つまりどうにもならないことだ。
どうせこんなになるのなら、早く氷を削ってしまえばよかった。
冷めないうちにスープを飲み干してしまえばよかった。そんなことにも気づけず、ただいたずらに季節を渡り歩いた。損失に気がついたのは、いつのことだっただろう。

ああ、雪よ林檎の香のごとくふれ。
全てを覆ってしまえばいい。
むせ返るような香りに、酔うように、全てを忘れさせてくれればいい。

そう、こんな思いをするのなら、あの時、さよならと言えば良かった。
こんな思いをすることを知っていれば良かった。

でも、たとえそうでも、彼のことを愛していたあたしは、こんな思いをすることを選んだでしょう。
それが特に、ひどくいたい。

*◇* *◆*

 −春の鳥 な鳴きそ鳴きそ あかあかと 外の面の草に日の入る夕
 −君かへす 朝の敷石さくさくと 雪よ林檎の香のごとくふれ
   北原白秋



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