スープは冷めるし、氷は溶ける。
全てはもとに戻ろうとする。
それに反発することに、もう疲れてしまった。
でも、氷はもとの姿には戻らないし、スープはおいしさを損なう
でしょう。
もうきっと、だめなんだろうな。
あたしたちは。
「ななきそ、なきそ」
あんまり辛かったので、あたしは小さく呟いた。
彼の弱い笑顔がまぶたに貼り付いて決してはがれようとしない。
泣きそうなのはあたしのほうだった。
どうしようもないことは、つまりどうにもならないことだ。
どうせこんなになるのなら、早く氷を削ってしまえばよかった。
冷めないうちにスープを飲み干してしまえばよかった。そんなことにも気づけず、ただいたずらに季節を渡り歩いた。損失に気がついたのは、いつのことだっただろう。
ああ、雪よ林檎の香のごとくふれ。
全てを覆ってしまえばいい。
むせ返るような香りに、酔うように、全てを忘れさせてくれればいい。
そう、こんな思いをするのなら、あの時、さよならと言えば良かった。
こんな思いをすることを知っていれば良かった。
でも、たとえそうでも、彼のことを愛していたあたしは、こんな思いをすることを選んだでしょう。
それが特に、ひどくいたい。
*◇* *◆*
−春の鳥 な鳴きそ鳴きそ あかあかと 外の面の草に日の入る夕
−君かへす 朝の敷石さくさくと 雪よ林檎の香のごとくふれ
北原白秋