【カッ!】【キュキュ!カッ!】
夕刻、小さな体育館に木霊する音。
夕陽が入らないようカーテンの閉じられた一角で、その二人は戦っていた。
一人は攻撃…卓球台の近くで、少しでもボールが浮いたら、ドライブやスマッシュを撃ち込む。
一人はカット…卓球台から2m以上離れてボールを斬っている。
斬ることで返しにくいように回転をかけ、また、相手の次の攻撃の威力を下げている。
【バキッ!!】
直径4cmのボールが、白い光の筋になって卓球台の上を走った。
『くっそ!!』
息をきらせて、少しぽっちゃりした少年が悪態をついた。
「また俺の勝ちか」
茶髪のガラの悪い少年がニヤリと笑った。
『最後…前髪が目に入った…』
「言い訳か?…じゃあ切りゃいいだろ」
『…やだ』
「じゃ、負けんな」
『ぬぅう…慎治にゃこの痛さはわからん!』
「俺なら切るってんだよ!…帰るぞ、真也」
真也は目に入りかけてる前髪をいじりながら、渋々帰り支度を始めた。
真也が卓球を始めて5年。同時期に始めた慎治は真也より戦績がいいのに、真也は試合で敗けが多い。
練習では真也が勝つことも少なくないが、慎治の身体的ポテンシャルは、真也にはない。
反射、判断力において、慎治が上なのだ。
「…お前も攻撃しろ」
『…できないの、知ってるだろ?』
「教えてやる」
『オレは…カットとサーブでいい』
真也が無愛想に言った。
「ハッ!強情なこった!」慎治は何故か嬉しそうに笑う。
『昔から君はSPEED、オレはSPINと決まっとる!』
「…誰が決めたよ…」
不良な感じの慎治と、温厚な感じの真也は、肩を並べて歩いていた。