「おいおい、『いい女』って自分から言うか普通。 いいからキミはおウチ帰って寝てな ――― なぁ、聞いてんの?」
京一の言葉には耳も貸さず、一ノ瀬由香里は持参のバスケットと共に助手席に収まり命令を下す。
「サンカク!ぼ〜っと突っ立ってないでこの変テコなベルト締めてよ!」
「俺は、み・す・み、だ」
半ば呆れて言い返した後、三角京一はサベルト四点式のベルトに手を掛けた。
顔を寄せた時、チラッと一瞬胸の谷間が視界に入り、爽やかなコロンの香りが鼻孔をくすぐった。
―――ま、いいかァ
本来、女の子に甘い性格の京一は、内心呟いてジュリアを発進させた。
クォオオオ―――ッ
岩壁に谺する吸気音の合間にキュキキィッとタイヤの鳴く音が響く。
「凄い凄ーい!横向きに走ってるじゃない!面白いね〜っ」
山道で少々脅かしてやる予定だった当てが外れ、それどころかハイになった由香里の矢継ぎ早の質問に京一は大変な思いをしていた。
由「この車ジュディだったっけ?」
京「いや、ジュリアだ」
由「何でハンドル逆に回すの?」
京「これはカウンターと言ってだな――」
由「ブレーキとアクセル一緒に踏んでるよ?」
京「これはヒール & トゥと言って――」
―――― 疲れる…
「お腹空いたね。お昼にしよ?」