ヤス#20
「当たり前だ。申し訳ないと思っていたんだ」
「ハナタレ」
「何だ」
「お前は良い漢になるな」
「意味がわからん」
「くおっ、くおっ…そうか、まあ良い。だが、今宵はしかとしてかかれよ。油断するでないぞ」
「今宵?…油断?」
「ああ、では、ワシは消える。また逢おう!」
サトリは雑木林に消えて入った。ヤスは呆然としてその姿を見送った。夢を見ているのだろうか…。ヤスは「あっ!」と思った。サザエが黒コゲになってしまった。
満天の星が煌めいている。目の前には月明かりの中、崎戸島の輪郭が見える。ヤスは焚き火が消えないように流木を炎の中に投げ込んで、潮が引き出すのを待った。御床島と崎戸島の距離は僅かだ。だが、そこは、潮が黒い帯となって、ゆっくりと流れている。水際が目の前まで迫っていた。そろそろ、満潮になる。あて六時間の辛抱だ。ヤスは家の事を思った。きっと心配しているだろう。探していると思う。明日になれば、父親に烈火のごとく怒られるに違いない。それを思うと気が重くなった。石を拾い、海に投げ込んだ。夜光虫が青白く光った。美しいと思った。そして、今度はひと回り大きな石を投げ込んだ。波紋に沿って花火のように煌めいた。