渡された薬はマーブルチョコだった。
【不透明なせかい】
水色。そらのいろ。
トリプタノール10、という名前らしい。――――うつの、薬だった。
錠剤がこんなに毒々しい色をしてていいものか。こんなものを飲むほど俺の病気は重いのか。
「学校は無理しなくていいよ……まずは病気を治さなくちゃいけないからね」
中年ほどの、それでもかなりの美人なカウンセラーは俺のセーラー服を見てそう言っていたのを思い出す。
俺――別に女装趣味でも性同一障害などでもない。
ただ、『おんなのこ』という自覚もない自分にはこれがちょうどいいように思えたのだ。
……叔父が、死んだのはいつだったろうか。特に悲しかった記憶はない。
ただその数か月後から発作が始まった。長い長い、発作が。
自分もいつかは死んでしまうという事がとても恐く思えたのだ。
体もなくなり感覚もなくなり『自分がなくなる』という自覚もなくなる。
死んだ後は暗やみだと言うが、『自分』がなくてどうやって『闇』が知覚できるだろうか。
それが果てしなく怖い…いや、怖かった。
今は別に、どうとも思わないが。
……病気で広がった世界の話を、しよう。