あの日、あれから春紀とはろくな会話もしないまま家にたどり着いた。家に着くと持ち前の愛想の良さで我が家のアイドルと化す春紀。うちの母親には、「この料理すげぇうまい!おばさんやっぱ料理上手だね。」なんてうまいこと言ったかと思えばうちの父親と野球中継を見て盛り上がったり、食事が終わると弟の部屋で弟と一緒にゲームで遊んでいる。うちに春紀が来ると、昔からみんな春紀の取り合いになるのだ。私は自分の部屋のベッドに寝転がり、春紀について考えていた。
“誰かさんがいつからか俺を避けるからじゃない?”春紀の言葉が頭をぐるぐると回る。
確かに私は中三の終わりぐらいから春紀を避けている。春紀の取り巻きに勘違いされて嫌がらせをされるのが嫌だったのもある。あとそれと…
あの事があってからだ。
私は顔を手で覆う。
あれから…春紀を無意識に避ける様になったのか。
ぼんやりと私は天井を見つめる。次第にまぶたが重くなり、私はゆっくりと夢の中に誘われていった。
―久しぶりにあの夢をみた
涙がとまらないほどの切ない別れ
愛しい人
満開の桜の花
そこで私はハッとし、目覚める。
目を開けるとそこには春紀の綺麗な寝顔があった。
私は春紀の髪を思いきり引っ張る。
「いててて…ハゲるって!ストップ!」
「てめぇー何で私のベッドで寝てんだぁ?」
低血圧なので朝はローテンションで怒る。
「ぎゃーごめん!昨日、美咲の部屋に話したい事があったから行ったの。そしたら気持ちよさそうに寝ててさぁー、一緒に寝ちゃった。テヘ☆」
「殴り殺されるのと蹴り殺されるのどっちがいい?」「え…生存確率0%!?」そんな馬鹿なやり取りをしていたのだが、急に春紀の顔が険しくなる。
「…美咲、泣いてたのか?」
春紀は私の頬にふれる。
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