『やっぱさ、スピンだけじゃ…』
真也が寂しげに呟いた。
「んー…?」
『オレも…スピードが欲しかったなぁ。…野性的な勘も…強い精神も…』
慎治は暫く黙った後、少し笑いながら言った。
「…俺なぁ…最近ドライブの練習してて、初めてお前が言ってた意味わかった」『言ってた…?』
「スピンは全てのボールの元だ!…っつってヨ?」
『…けど、スピンだけじゃあ…攻撃しなきゃ…勝てない…!』
真也は歯噛みして、拳をにぎった。
「おぉそうだ!俺お前に教えて欲しいことあったんだよ!」
『へ?』
真也は目を丸くした。プライドの高い慎治が自分に教えをこうのは約3年ぶりじゃないだろうか。
「よくスピンがかかる打ち方ってヨ、ラケットのどこで打ちゃいい?」
『ぷっ…君いつもラケットのど真ん中でサーブもするもんな!』
真也が久々に笑った。
「うっせーな…どこなんだよ!?」
『はいはい……えーとなんつーか…そうだ!手でいうとこの小指からボールを擦って親指までボール転がすんだよ!』
「途中で放れるだろ!」
『だからボールを押さずに、斬ることを考える』
真也はその日、就寝まで笑顔だった。
*
(これが…あの質問の意味かよ!)
真也は顔がすこし青ざめてした。心音が聞こえそうなくらい、瞬きもできない。
慎治のボールは一度慎治のラケットに隠れたかと思うと、そこから急激に曲がり、台の端のホワイトラインに喰らいついた。
「どうよ!?スゲーべ!?」『なんだよ…90度近く曲がったぞ!』
「シュートドライブ…だっけ?」
『…逆じゃね?……えーと…スライダードライブ?』「野球かよ…」
真也は目をかなり開いて慎治を見た。…睨んでるに近い。
「もっかいやってやろうかよ!」
『上等だよ…斬る…!』
慎治がラケットをフォアサイドに構え、真也は腕を伸ばしてラケットで慎治を指した。
(これが君の悩んでた、その答えか…慎治!)
真也は成長するライバルが恐ろしく、また面白くなって思わず笑った。
(男の性か…)