僕は、天国の入口にいました。いや、地獄の入口かも知れません。とにかく、僕は、裁かれるのだと思いました。
僕は、この世に神様などいないと思っていました。だから、あれは夢なのかも知れないと思っています。僕がいたのは何処か分かりません。暗闇の中、スポットライトがあたるように、僕のまわりだけ明るいのです。おまけに地面がなく、宙に浮いた感じなのです。
「お前はどうして自殺などしたんだ?」突然、何処からか声が聞こえました。
「貴方は神様ですか?」と僕は聞きました。
「質問に答えなさい」とだけ、声の主は言いました。僕は、答えました。「僕は、色んな事で多くの人を裏切り、苦しめ、悲しませて来ました。友達を裏切り、愛する人を悲しませ、そして、大切な家族、特に母を悲しませました。僕は、もう四十歳です。将来など見えています。僕が死んでも、数年、いや数ヶ月で、皆、僕の事を忘れるでしょう。しかし、生きていれば、これからも、誰かを傷付け、苦しめていくのです。僕は償わないといけないのです」すると、声の主は言いました。「償いは死んで行なうものではありません。生きて行なうものです」その声が聞こえ終わると、目が覚めました。そこは病院の個室でした。腕には点滴が刺されていました。あとで分かったのですが、薬を大量に飲んだ翌日、僕は、アパートから出、路上に倒れていたそうです。薬を飲んでから、病室で目覚めるまでの記憶はありません。
目が覚めた日の夕方、母と妹が来ました。
「親より早く死ぬほど親不孝な事はない」と言い、母は僕の頬をはたきました。母は泣いていました。妹も泣いていました。僕も泣きました。母は僕の手を握りました。母が随分と歳をとった事を今更ながら感じましたが、その手はとても温かでした。
「何歳からでも人生はやり直せるんだよ。皆で一生懸命生きて行こう。頑張ろう」母は声を詰まらせながらそう言いました。母の瞳からは涙が流れていましたが、顔は笑っていました。
僕は、生きて償い、頑張らないといけません。大切な人達を失わないように。もう一度、取り戻す為に。涙がいつまでも止まりませんでした。