何時間たったのだろう。麻衣は携帯の着信音で目を覚ました。着信音は麻衣のものではなかった。男の携帯を見た。
・・・着信中 さちこ・・・画面には見た事もない女が映っていた。着信は15秒くらいで切れた。麻衣は男の携帯を手に取った。自分の意思とは関係なしに手が動くのを感じた。メニュー、アドレス張、グループ、彼女、麻衣はボタンをゆっくり押した。【彼女 浦川さちこ】
「あたしじゃない・・・」胸が締付けられた。今まで彼氏の携帯なんて見たことなかった麻衣が何故かそのときだけは携帯を手放せなかった。
受信メール・・さちこ・・「今日はプレゼントありがとう☆すごい可愛かったよ!!大事にするね。大好き☆」
送信メール・・「俺もさちが好きだよ☆」
麻衣は無表情で携帯を置いた。手に力が入らなかった。何とも言い表せない気持ち悪さが麻衣を襲った。便器に顔をつっこみ吐いた。何度も何度も吐いた。胃液しか出てこなかった。吐いた勢いで涙が出たのか、悲しくて涙が出たのか分からなかった。麻衣の行動で起きたのか男が目を覚ました。
「何やってんの?」
その声はまるでおかしなものを見て笑っているようだった。
麻衣は言葉が出なかった。体が小刻みに震えた。麻衣が言葉を発しようとしたその瞬間お腹を強い痛みが走った。
「お前、俺の携帯見たろ」
麻衣にはその後、男が何を言ってるのか聞こえなかった。ただ、お腹を蹴られる痛みだけが止まらなかった。男は何度も何度も麻衣のお腹を蹴り上げた。最後にこめかみを殴ると男は部屋を出て行ってしまった。
麻衣は玄関でお腹を抱えて涙をこらえるしかなかった。冷たいフローリングに麻衣の涙がたまった。