『ごめん…』
「カノンー!!!」
叫びに似た女の声で目がさめた。
声の主はカノンの母親だった。
その顔は恐れに強ばり、目には不安の色が溢れていた。
医者と看護士が慌てて入ってくる。
カノンの命を支える機会が慌ただしく表情を変える。全ては一瞬のように激しい波をおこしていた。
俺は自分の手から逃げ出したカノンの手を探した。
立ち上がると現実が迫った。
看護士の一人が俺を病室から出そうとしている。
この顔は見覚えがある。
カノン。
伸ばした手は虚しくカーテンに阻まれた。
カノンの母親の涙が見えた。
ドアの外で、俺はカノンの消えゆく命を認識した。
「拓海…」
母さんの声。
きっと。
「拓海。こっちきぃ。」
雅の声。
必ず。
「おばさん。拓海借ります。」
雅は半分意識を手離そうとしている俺を同じ階の展望室に連れて行った。
「拓海。経験者がゆうたる。気ぃだけはしゃんともち。」
「雅…カノンは…カノンは…」
声が震える…
「最後までゆうたらあかん。カノンが一番信じててほしいのはあんたなんよ。」
雅の言葉は素直に俺の内に入ってきた。
でも今は何にも考えられないし、考えたくない。
考えるのが怖い。
「俺…夢見たんだ…」
「夢?どんな?」
雅は近くの椅子に俺を座らせた。
「カノンが目を覚ますんだ。それで、ごめんって…謝るんだ……ずっと、目を覚ますまでずっとカノンの謝る声が聞こえて、響いて、消えなかった。」
手のひらで顔を覆った。
雅が肩を抱いてくれた…
ひたすら祈れ…
俺は自分に言い聞かせた…
カノンは死んだ。
俺祈りは届くことはなかった。
おばさんは、冷たくなっていくカノンの体に縋って泣き叫んでいる。
涙?
は。
ここはどこだ。
俺はなにをしてる。
カノンもいないのに。
カノンもいないのに…
カノン
「あああぁーーーーー…」
哀れなウサギの哀れな叫びが、どこまでも青く広い空にとけ込んだ…