ヤス#24
「ヤ…ヤスと呼ばれている」
「ヤス…か」
「どうした!喰らわんのか!」
「喰らわれたいのか?」「い、いや…喰われなくない!」
「ふむ…良い顔をしておる…喰らうには勿体無いようだ」
そう言って龍神が笑った。その笑い声に、ヤスは耳を押さえた。なんと言う大きな声だ。鼓膜が破れんばかりの大音響に、ヤスは気を失ってしまった。
ヤスの足首を水が洗っている。蟹が足を這い、フナ虫が胸をくすぐった。
「うっ…むむむ…」
夢だったのだろうか…。静寂の中、潮騒だけが響き、空には満天の星が煌めいている。
「おーい!…ヤスゥ!…いないのかぁ!」
「おーい!ヤスようっ!…いないのかぁ!」父と祖父の声が聞こえる。きっと空耳なのだろう…さっきの龍も、サトリも幻だったのだと思う。ひょっとしたら、自分は既に死んでしまったのかもしれない。そう思うと涙が溢れ、目尻を伝って流れ落ちていった。ゆっくりと体を起こしてみた。かがり火が近づいてくる。伝馬船に乗った父と祖父の顔があった。