ヤス#25
【アイ】
「ハヤト、行くぞ!」
竹竿を担いで、颯爽と歩ヤスの後を、一匹の犬が尻尾を振りながらついて行く。
ヤスは珍しく半ズボンをはいていた。だが、半ズボンより大きいサイズの猿股が、裾からはみ出している。肩から水筒を下げていた。犬の名はハヤトと言う。雑種だ。半年前に、父が友人から譲り受けて来た。ハヤトの世話はヤスが買って出ている。最近はどこへ行くにもハヤトと一緒だった。一人っ子のヤスにとって、ハヤトは愛犬と言うより子分。子分と言うより弟のような存在になってきている。
夜、ヤスが居なくなったと家族が大騒ぎしていると、土間でハヤトと寝ていたりするのだった。流石に父親も閉口した。セガレは畜生に成り下がってしまったか…と嘆いていた。冬が過ぎ、春がやって来ようとしている。
ヤスは待ち遠しかった。間もなく磯が解禁になる。解禁になったら、ウニやワカメを採って良いのだ。
漁には祖父と一緒に毎日出ている。日課の釣りも欠かした事がない。勿論、学校へも休まず通っている。親は勉強に関しては一切口を出さなかった。ヤスはこの夏、八歳になる。伝説の龍神を見たのが七歳の誕生日だった。