彼の家までは隣の県まで行かねばならず、電車にて移動する。
通勤ラッシュの時間帯ではないが、座席は空いておらずドア近くで落ち着く、、。
アナウンスが鳴り、お決まりの注意事項が続く。
外へ目を向けると、手荷物を抱えた老女がこちらへ歩いてくる、、見た目七十歳近いであろう。
容赦なくドアは閉まろうとしている、、。
何か思ったわけではない。考えるよりも先にドアに手を当て、閉じるのを防いでいる自分がいた、、。
彼女は私の行動を見、電車に乗り込み軽く会釈した。
電車は進みはじめ、次の駅の名を告げる。
後、車内は雑音のみとなった、、。
トントン、、
背中をツツかれる、先程の老女だ。
「ごめんね、、ありがとう。私なんかのために優しくしてくれて。」
どこかで聞いたセリフ、、。
「昔は当たり前の行為だったのに、最近は皆自分のことしか見えてなくてね、、。
でも、まだ人を気遣う優しい人がいる。
その心をいつまでも大切にしてね。お嬢さん。
本当にありがとう。」
何か暖かいものが胸に込みあげる、、。
『ありがとう』という言葉、、それ一つでなんて救われるんだろう。
次の駅で彼女は降りていった、最後にもう一度こちらに会釈し、、私も手を振り応えた。
曲に合わせるかのよう電車は揺れる、、。
目を閉じ流れる音の景色を想像する、やわらかな風が吹いた気がした、、。
目的の駅へ到着し、私は深呼吸しノビをする。
よし、行くか!!
地図を片手に歩き出す。昨日の雨は嘘のように雲一つない良い天気だ。
こんな日に洗濯したらよく乾くのにな、、なんだか自分がおばさんに見えてきた。
彼の済むであろうアパートへ到着、、ここまで来て悩む。
しばし入り口前でうろうろ、、、。
「よしっ!!」
意を決してチャイムを鳴らした、、