僕は,ずっとこの半年間の間あの人の事を見て来ました。でも,今日こそは勇気を振り絞ってあの人に声をかけたいと思います。
半年前ー 春,中学生になったばかりの僕は親の仕事の都合でこの新しい街に引っ越してきました。本当は親しい友達がいる前の街の学校に行きたかったけど仕方がなかった。
入学式当日の日。新しい街での新しい学校での生活が始まろうとしています。僕はただ不安と楽しみが共存しあっていて複雑な気持ちでした。
『お母さんっ!まだぁ〜?』
まだあわただしく支度をしているお母さんに僕は声をかける。
「どうしよ〜,お母さんまだ時間かかりそうなのよ〜。」
『早くしないと遅刻するじゃん!』
「そうだ!伸也,先に行ってて来れる?靴箱の上にこの街の地図があるから,それ見てさ〜お母さんも支度済んだらすぐ伸也の後向かうから。」
『分かった』
一言そう言って僕は地図を手にとり新しい履きなれない靴をはいて学校に向かった。学校に行く道は始めの方は順調だったけど,何処で間違えたのだろう。いつの間にか僕はとうとう道に迷ってしまった。
『何処だよ…ここ…地図見ても全然分からないし…』
周りは住宅ばかりでコンビニ等が見つからなく人も誰も通っていなかった。
『コンビニがあったら…店員に聞けるのに…』 しばらくして歩き疲れた僕はその場で地べたにしゃがみこんだ。どのくらいの時間が経ったのか遠くの方からぼんやりとママチャリに乗った女の人が見えて来た。どんどん近づいて来るほど姿がハッキリしてきた。茶色いサラサラした髪に足首まである長いセ-ラのスカ-ト。いかにもヤンキ-な格好に声をかけるのに戸惑ったけど,今このチャンスを逃すと今度はいつ人が通るか分からない。僕は無我夢中で女の人を引き留めた。
『あ…あのっ!!〇×中学校に行きたんですけど道教えてもらっていいですか?ぼ,僕まだ引っ越してきたばかりで…その…』
困りながらタドタドしく話しかけると女の人がしばらくして
「乗りなよ!このままだと絶対あんた遅刻するよ?」
『え!?…で,でも…』 「いいから早く乗れって言ってるだろ!!!」 勢いよく言われてびっくりした僕は言われるがままママチャリの後ろに乗った。女の人は勢いよく自転車をこぎ出した。僕はただただ女の人の背中を見ていた。微かに匂う香水とタバコの匂い。風になびく綺麗な髪。自転車の早さに気付いて驚いたのも束の間ようやく学校に辿り着いた。