「そっちの嬢ちゃんにはまったくしてやられたぜ……」
ヴァミオラは濃い紫のコートのポケットに手を突っ込みこちらに向かいゆっくりと歩いてきた。
「その格好……。武道の修業者か……?」
ヴァミオラからの問いに対し俺は構えた態勢のまま答える。
「一応……そういうことになってる」
「誰からの命令でここに来た?」
俺の返答から間髪入れずに聞いてくる。
「別に誰からも命令はされてない……。まぁ、強いていうならあいつの命令かな?」
俺はチラリとフロンの方を見る。
「……なるほど。まぁ、そんなことはどうでもいい。人の寝床ぶっ壊した上に仲間を問答無用で殴り倒してくれた礼をしたいんだが……今すぐにな」
ヴァミオラはポケットから手を抜き、戦闘の姿勢を取る。
「お礼とあっちゃ断る訳にはいかないな……」
ぐっと拳に力を込める。
「……こっちから行くぜ」
瞬間、ヴァミオラが一気に距離を詰めてくる。近づいてきたヴァミオラの顔は獣が獲物を見つけた時のような鋭い目をしていた。
「くっ……!!」
俺は眼前で腕を交差し防御の姿勢を取る。
「……ああ。言い忘れてたことがあったわ……」
ヴァミオラが本当に自然に話し掛けてくるように呟く。
「俺も武道技をやってたんだよ。つい最近までな……」