愛情領域1

 2007-04-05投稿
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−雨は憂鬱だった
いや、違う。雨は致命的だ。
昔は雨の日でもレインコートに長靴で遊びに出たものだ。
しかし、幼い日の楽しい思い出もいつのまにか思い出したくない記憶に変わった。
あの雨、その光景は致命的だった。

6年前の雨の日、母が死んだ。
即死、交通事故、学校にいた僕を何を考えているのか分からないくらいに難しい顔をした父が迎えにきた。行き先も告げずに車で走った先には真っ白いーきれい好きだった母がよく持たせてくれたハンカチに似ていたー布をかけられたー黒ずんだ泥汚れみたいなのが全身についていたのを覚えているー母が、母だったものがいた。

死、を理解したのはもっと後だと思う。
その頃はもう母の顔など覚えはいなかった。

だから、思ったんだろう。あの時と同じ雨の日に、母に会いたいと。


−ひしゃげたガードレールに沿って道を眺める。車のはねた泥水が透明なビニールの傘を汚く染め上げる。その汚れを滴る雨粒が洗い流す。無限に続くほどの単純な繰り返しが過ぎたふとしたときに、見えた。
泥と見間違えるほどの血を浴びた人形が、もとは母だった何かがー何なのかわからなかったわけじゃ無い、認めたくなかったんだーぼうと、佇んでいた。

逃げ帰ったのを覚えている。傘も濡れる事も忘れて、ただ逃げ走ったのを。

雨は憂鬱だ、
雨は致命的だった。

また、あの時と同じものー世間一般では霊というんだろうーを見るのが怖かったから、嫌だったから。


でも、見てしまった。
彼女を。

ある日、雨の降る中−うたれても濡れない少女を。



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