ある晴れた朝だった。昨日まで降り続いていた雨が嘘のようにあがり、まさに絶好の儀式日和だった。
いつもならまだ静けさに満ちているはずの街も、今日だけは特別だ。すでに大勢の人が我先にと城の踊
場に集まり、その最上階を見上げている。
慌しさの中に、わずかに含んだ厳粛な空気。国民全てが待ち望んだ最も祝うべき日。
そう、すべてが順調なはずだった。彼がその手紙を見つけるまでは。
アンセトル国城内のとある一室、少年の手は震えていた。まだ幼さを残しているはずの愛らしいその横
顔は、今は見る影も無く怒りと焦りに凍り付いている。
「あ……ああ……」
言葉にならない憎悪が、手に持った紙切れを通してふつふつとわいてくる。闇色の髪とは対照的に、
象牙のような白い肌には大粒の汗が浮いていた。
きりきりと鳴いてやまない奥歯を痛いほど感じながらも、少年の視線は一点にしか集中していない。
彼の漆黒の瞳を釘付けにしているのはただ一つ。ぎゅっと握った手紙に綴られた、女性のように繊細な
文字。書かれていたのはふざけた一言。
「後はよろしく♪」
この時になって少年はようやく押し込めていたものをあらん限りの声で開放した。
「にっ……逃げやがったぁぁぁぁ〜〜〜!!!」
城中に響き渡ったのではないかというほどの声に、その部屋の前を通りがかった兵士は驚いてドアを引
っ張り開けた。
「ど……どうなさいました王子っ!!一体何が!?」
が、兵士が見たのは想像していた人物ではなかった。