ヤス#27
ヤスは、その白波を見ながら、魚が餌をついばむ感触を小さな指先で感じ取っていた。
「コツッ、コツ…コツッ
まだ早い。小さなベラあたりが餌をついばんでいるだけだろう。すると、指先に手応えがあった。
「来た!」
ヤスは糸を切られないように、慎重に引き上げていった。大きめのアラカブが釣れた。二時間程で五匹のアラカブと三匹のクサビが釣れた。
一日の漁としては十分な量だ。必要以上は獲らない。祖父で師匠でもある森一の教えであった。
ヤスがそろそろ帰ろうとした時、ハヤトの尋常ならぬ声が響いた。ヤスは、竿と獲物を担ぐと鳴き声のする方角へと急いだ。
「ハヤト!どうした!…ハヤト!」
ハヤトが岩陰でけたたましく吠えている。
ヤスは急いだ。気持ちははやるが、岩場なのでなかなか先へ進めない。ハヤトの声がやんだ。そして、悲しい鳴き声に変わっている。ヤスの目にようやくハヤトの背中が見えてきた。
「ハヤト!どうしたんだ?」
ハヤトが走り寄ってきた。ヤスは岩の上に上がって見下ろした。黒い布のようなものが微かに見えた。
ヤスは岩から降りて、その場所まで近づいた。全身に鳥肌が立った。