「ん〜、皆さんがんばるねぇ♪」
まるで他人事のようにつぶやく騒ぎの張本人は、弟と同じ艶のある黒髪を頭の後ろで適当にくくった。
中途半端に伸びたそれはいつも第一王子である兄から「うっとおしい」と文句をつけられていたものだ
が、セデゥスはその中途半端さが気に入っていた。
彼が思うに、「兄さんは僕がもてるからおもしろくないんでしょ?」といったところだが、それは事実
当たっていたりする。
セデゥスは決して美青年ではなかった。それを言うなら弟のほうがよっぽど綺麗で整った顔をしている
し、兄のほうが男らしくもある。何度鏡を見たところで、映るのは平凡な青年の姿。
だが成人を過ぎても、彼が慈母神の再来と呼ばれるのは伊達ではない。どこか憂いを含んだその表情は
男女を問わず惹きつけ、神秘的な影を落とす。セデゥスが感情を露にして怒鳴るところなど誰も見たこ
とがない。
だからして卒兵達の間で必ず囁かれるのが彼の噂だ。いわく、「慈愛の佳人」だそうだ。
まぁ、弟や兄に言わせれば「騙されてる」の一言であろうが。
「さぁて、どうしたもんかな」
ぺろりと唇を舐めると、慈愛の佳人とやらは、自分の置かれている現状にどこか嬉しそうな笑みを洩ら
した。