【バキッ!】
「デュース!」という声がアリーナに小さく響いた。
「ハァ、ハァ…いつもお前との勝負は……!」
『ハァッ、ハァッ……もぉさ、技の勝負はキツイね』「ふぅ……久々にやるか」『あぁ、やろうか…!』
二人はニヤリとわ笑って、それぞれ独特の構えを取った。昔、冗談半分でよくやっていた構えを。
真也は腕を伸ばしてラケットで慎治を指した。慎治は左腕を背中に隠して、フォアサイド特化型の姿勢を取る。
『「参る!!」』
【パキッ!】【バキッ!】【カッ!】【バキッ!】
スマッシュ・カウンターの応酬戦に観客席の人達も真也達の試合に興味を持ち始めた。
真也達も試合であることを忘れるくらい集中して、外界と自分達を切り放している。
『っンの!! いいかげんに…!』
【ガッ!】
「くたばれ…!!」
【バキッ!】
観客席の目が集まるのも無理はない。
セットは2:2でフルセット、点数は11:11でデュース。それなのに二人はわざと返しやすいコースに撃ち込みあって楽しんでいる。
【ガッ!】【パキッ!】
【ガッ!】【バキッ!】
『ォオッ!』
【バキッ!】
「…っ!」
【パンッ!】
慎治の打ち返したボールは力が入っておらず、ゆっくりと真也のコートに飛んで行った。
集中している二人には長く感じられる時間だ。
慎治のラケットからボールが離れた瞬間に、真也は言った。
『最後だ…カッコつけていいよね?』
慎治は無言で笑った。
『横・イチ・モンジィ!!』
【カッ!】
*
蝉の声が常に聞こえる。不快ではないが、うるさい。
『ツクツクホウシか…夏も終わりだな』
真也は静かに笑って、言った。
「あぁ、だな。最近は寒くてダリーぜ」
『ハッ!君には風情とかゆーのぁ縁遠いね』
「アァ!?テメーに言われたく……オ!」
慎治が突然しゃがみこんだので、真也が首を傾げた。
『…どしたの?』
「落ちてた」
慎治が白いピンポン球を掲げた。
『…卓球部に届けてやろーよ』
「ヤダ、俺んだ」
『ったく……じゃ、せめて見ていこう』
「あぁ、別にいいぞ」
二人は肩を並べて歩いた。
体育館近くにまで来ると、卓球部の奏でる熱い音が聞こえた。
『まだ、夏なんだろうね』「あぁ…熱いな、此処は」
【キュキュッ…カッ!】
スマッシュの音が体育館に響いた。