砂場と牛丼―?

911  2007-04-08投稿
閲覧数[502] 良い投票[0] 悪い投票[0]

夜の公園で私は一人、砂の山の形を富士山に少しでも近づけようと、スコップ片手に山肌を押し固めていた。外灯には、群がることを生き甲斐にする虫たちが、淡い光の中たった一晩の舞踏会に酔いしれていた。小一時間前に建設を開始した砂製の通天閣は、美術の成績には少し自信を持っていた私の腕前をもってしても、とんがりコーンの天辺が平たくなっているだけにしか見えない、という代物となってしまい、今度はよりレベルが低い富士山にターゲットをしぼり、ついさっき造成を開始したのだった。
スコップを山の側面に絶妙な加減で叩き付けながら、日が暮れる前まで私が見ていた主婦向けの報道番組で取り上げられていた、強盗事件のことを思い出していた。

事件の概要を説明すると、こういうことである。
犯人は今日の12時頃、太陽が照り付ける真っ昼間に、上下黒で統一したジャージに目だし帽という、あまりにベタ過ぎて親近感さえ沸いてしまうような強盗犯の定番スタイルで、オフィス街にある牛丼屋に稼ぎ時に押し入り、店員に拳銃を押しつけ、ただ一言、「金を出せ」と聞き取りにくい小声で言った。
アルバイトの女性が不審者に対する護身術など身に付けているわけもなく、犯人に言われるがままに、レジにあった大量の札束―――ではなく、500円玉などの小銭をせっせと犯人の革バッグに詰め込み、その間、不幸にもその場に居合わせたサラリーマン達は、企業戦士の看板とは裏腹に、六連式リボルバ―に恐れおののき、ある者はカウンター下の小さな隙間に潜り込み、またある者は一昔前の刑事映画の降伏した犯罪者のように両手をあげていた。
勇敢にも犯人に立ち向かう者がいなかった訳でもなかったが、犯人と目が合い、リボルバーの銃口を向けられると、青菜に塩のごとく、闘争心をそぎ落とされ、へなへなと椅子に座り込んだ。
そうこうしている間に、女性店員は鞄に金を入れ終え、犯人はそれを受けとると、小走りで店を出て、外に停めてあった、お世辞にも速そうとは言えないスクーターに乗って何処かへ走り去って行った。
犯人が出て行った後、店員は急いで警察に電話をしたが、パトカーが駆け付けた頃には犯人が逃げてからすでに15分が経過しており、逃走車両のナンバープレートを記憶している人もいなかったため、強盗犯を追うには一般人の目撃情報に頼るしか無くなってしまった。

続く…



投票

良い投票 悪い投票

感想投稿



感想


「 911 」さんの小説

もっと見る

ミステリの新着小説

もっと見る

[PR]


▲ページトップ