盗られた金額は約30000円。怪我人はなく、 それほど凶悪な犯行とは言えない今回の強盗事件は、早々に捜査が打ち切られるだろう、と、丸顔の男性キャスターは話していた。
ただ一つだけ、犯人には大きな特徴があったという。
それは、左手の薬指の第二関節から上が無かったということである。
犯人は手袋をしておらず、欠損した指はかなり目立っていたという。
しかし、それ以外に犯人は有力な証拠を残さず、小規模ながら、完全犯罪を達成したかと思われている。
グシャ、という感覚に、意識が脳内世界から現実世界へ呼び戻された。
考え事をしながらスコップで叩いていたため、富士山の六合目辺りが、まるで誰かにかじられたようにへこんでしまっていた。
「やっちゃった…。」
一人呟いて回りを見渡して見ると、公園の前の道を走る長距離トラックから吐き出された雨雲のような排気ガスが、風に運ばれはるか彼方に消えていった。
砂場の脇にあるベンチに腰掛け、携帯電話を開く。今話題のワンセグ機能が付いたこの携帯を買ったのは、ついさきほどである。
ついに時代もここまで来たか…、という感慨に浸りながら、ワンセグ機能を呼び出し、チャンネルを7時からのニュースに合わせる。
すると、ニュース速報で、先ほどの強盗事件の犯人が捕まった、と伝えられていた。犯人は17歳の少年で、しかも、私の高校の同級生であった。しかし、かれの日頃の行動や性格が極めて粗悪であり、さらに過去に私は彼に陰湿ないじめをうけた経験があるため、まったく同情の気持ちはわかなかった。逮捕の決め手となったのは、彼のアリバイがないこと、彼に窃盗の前科があること、そして犯人のことをよく知る、つまり、薬指を欠損している人物を知っている、という人物からの匿名の情報提供、この3つらしかった。彼が幼い頃、親に黙って自宅にあった耕耘機をいじっていた時に機械が暴走し、彼の左手の薬指を削りとっていた。
容疑者は犯行を否定しているが、起訴されるのは時間の問題とのことだ。
私は、30分程前に警察に情報提供の電話をした携帯電話を閉じ、上着の右ポケットにいれて、砂場に戻った。ここの砂場は一般の公園の砂場よりかなり深くなっており、優に深さ1メートルはある。通天閣や富士山を作る際に砂を掘り出したため、正方形の砂場の一角には80センチほどの穴があいていた。
続く…。