降りしきる雨の中、俺はただ黙り込む事しかできなかった。
少しでも口を開けば心の奥の、本音が出てきそうだったから。
――ずっと一緒にいたい。
でもそれは、絶対に叶う事は無い。俺と彼女はあまりに離れ過ぎてしまったから。
雨と共に、俺の涙が零れ落ちたような気がした。
そして彼女も、泣いていた。
「ねぇ、何か言ってよ、…………裕也っ……!」
ポロポロと涙を零しながら俺に言葉を求める。でも答えられない。
彼女が見ているのは今の俺じゃないから。
「俺はっ、………」
何か相槌を打とうと言葉を必死で出そうとするが、詰まってしまう。
――今ノ俺ヲ見テイナイ。
その事実が強く胸を切りつける。強く心を打ち砕く。
何も言わないでくれ。傷つけないでくれ。愛してくれ。今の俺を見てくれ。昔の俺なんて忘れてくれ。
ただ矛盾し、それに自己満足の願いが心を満たしていく。
「ごめん」
それだけの言葉をやっと紡ぎ、彼女に背を向ける。
何も思い出せない。
木史葉 裕也。(きしは ゆうや)つまり俺は記憶喪失。
それでも俺は、彼女を好きになった。
記憶が消える前の俺と同じくに。
俺はどうしたらいいんだ?
1話へ続く