ヤス#29
肌の色は殆ど真っ黒で、口が耳まで裂け、高い鼻は折れ曲がっている。額に長い髪が張り付いていた。
「ば、バケモノか!」
「う…ううっ…うう」
悲しそうな声を出している。怪我でもして弱っているのだろう。ヤスは少しだけ勇気が出た。
「どうした!怪我でもしたのか」
「ううっ…うう…水」
「水?…水が欲しいのか?」
バケモノはゆっくり、首を縦に振った。どうしようかと思う。このバケモノに水をやっても良いものだろうか。もし、水を与えて、元気になったら襲って来はしないだろうか…ヤスは思案した。
「水…を…ください」
ください…という言葉にヤスは安堵した。きっと、弱い魔物なのだろう。そう思うと、急に哀れになり、肩から下げた水筒を取ると、蓋に並々の水を入れて渡した。バケモノは奇妙な音を立てながら啜った。そして、もう一杯くれと哀願した。また、もう一杯。ヤスの水筒は空になった。バケモノの肌の色が次第に白くなっていった。「やい!お前はバケモノか」
「ふふ…あなたから見ればそうかも知れませんね」
「ああ、バケモノにしか見えないがね。名前はあるのか?」
「ありますとも。アイ…と申します」
「アイ…か。何故、ここで倒れていた」