ヤス#30
｢はい、私はテンという国からの旅人でございます。嵐に遭い、ここまで流されて来たのです｣
｢聞いた事の無い国だな。中国か？…で、そのテンという国にはどうやって帰るのだ？｣
｢…もう、帰る術がございません｣
｢そうか…船が無いんだな…どうする？｣
｢さあ…どう致しましょうか…｣
ヤスは困り果てた。放っては置けない。だが、こんなバケモノをどう扱えば良いのか、ヤスの小さな脳みそでは、限界があった。
｢アイよ。腹は空いていないか？｣
｢はい…何も食べていませんので…｣
｢じゃあ、俺が釣った魚をやろう。マッチもあるから、火をおこして焼いて食うといい。それに、着る服もいるだろう。持って来てやるよ。家は貧乏だからボロしか無いが、お前が身につけている物よりはましだと思うし、海水で濡れているだろう。ここで、待っていろ｣
｢お優しいですね。ありがとうございます｣アイは三つ指をついてお辞儀した。そして、上げた顔を見てヤスは驚いた。美しい女性になっていたのだ。髪の毛も艶やかに黒く輝いている。
｢お前は、姿を変えられるのか？｣
｢いいえ、自分では変える事ができません｣ ｢でも、変わったじゃないか…なんだ…その…綺麗になっている｣
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