剣・魔法・妖精・竜。
ファンタジー世界にはなんだってある。
だから
腕・脚・内臓・首。
こんな光景もどこにだってある。
ファンタジーなめんじゃねえぞ。
「次!」
目の前の筋肉ダルマのぶっとい首を斬り落とし、その反動で走り抜ける。
飛来する鉄の矢をかわすと、間髪いれずにあたり一面を覆う雷。
咄嗟に絶縁・防火・防水素材のマントで体を覆う。内側からは透過性なので周りも見渡せる。そしてまた雨のように降ってくる矢。
敵も味方もわからない、ここは戦場。
男も女も子供も、剣士も弓兵も魔法使いも、人間も獣も妖精も、関係ない。
事実、俺は今年で13になったばかりだが、もう第一線で戦っている。
父親はとうの昔にどこかの戦場に行ったし、母親はいない。兄弟もてんでバラバラ。とにかく相手を殺して殺して殺していくしか生きる方法はない。
絶望なんてしてる暇はない。これが日常。
と、耳に入る女の声。
『撤収準備を開始。日が落ちるまでに北の城門前へ。』
「りょーかいっ!」
応えると接続が切れた。どういう仕組みかはよくわからないが、便利な魔法だ。
もちろん今の指令の裏には「日没までに来なければ戦場に放置」という冗談でも笑えない状況が示されている。周りの臆病な奴らは我先に撤収を開始する。中には追撃で背後から刺されるアホもいた。
俺は虎と狼のハーフみたいな獣を2・3匹叩き斬ってから近くの森へ飛び込む。少年兵のポピュラーな逃亡方法だ。
敵も深追いは危険と考えたか、あきらめて去っていく。
配給されたダンゴ状の肉を口に放り込んで、走りながら栄養補給。しばらく行くと、四方を青い尖塔が囲む白亜の城が眼下に見えてきた。
「ヨキ!」
ふと聞きなれた声が上から聞こえてくる。茜色の空を見上げると、黒い大鷲が風を吹き荒らしながら降りてくる。その背中には、
「あれ、シン帰るの早いね」
「腹へったんだもん。乗ってく?」
「あんがと」
大鷲の翼が宙へ舞った。