「好きな娘が出来た。だからこれからはあんまり会えないんだ。」
悟の言葉に対して由紀はただうなずいた。
「…うん。分かった。」
「由紀…。俺さ…」
「もう、会わない方がいいよね?今更友達に戻るっていうのも難しいよ。きっと。」
「由紀?マジで言ってんの?」
「うん。もう会わない。」
「……」
「元気でね。今までどうもありがとう。」
由紀は車を降り駅に向かった。
悟は追いかける事はできなかった。
追いかけて、連れ戻してずっと一緒にいたかった。
それは、絶対にできない事だった。
由紀と悟は中学の同級生だった。よく気が合って、自然といつも一緒にいた。
先に恋愛感情を抱いたのは由紀だった。
中学2年の夏、悟に気持ちを打ち明けた。
悟は、ずっと友達でいてほしいと、由紀に言った。
由紀はそれを受け入れた。そんなに簡単なものではなかったが、由紀を大切に思ってくれる彼氏ができ、自然と悟に対する感情も落ち着いていった。
中学を卒業する間近になると、悟は後悔をしていた。
由紀に対する気持ちが少しずつ、でも確実に恋愛感情へと変わっていった。
そして、その気持ちを伝える事なく、卒業し二人は別の高校へ通い出した。
それからも月に1、2度は気の合う仲間で会ってはワイワイ騒いでいた。
由紀は少しずつ、その集まりにも顔を出さなくなっていった。
高校を卒業する頃には、携帯番号もかわりすっかり音信不通になった。
悟はどこかで由紀とつながっていたかった。
高校に入り、恋人もでき、それなりに楽しくすごしてきたが何かが足りないとずっと思っていた。それを埋めることができるのは何かも分かっていた。
再会…
それは、ふたりが26歳になった秋だった。
中学校のクラス会の案内が実家に届いていると母から連絡を受けた由紀は、母に返信ハガキをポストに投函するよう依頼した。
出席します。
悟に会いたかった。忘れたことはなかった。他に相手がいても、いつも心の片隅に悟が残っていた。
つづく