「こんなはずじゃなかった」このところいつも頭に浮かぶ言葉だ。
愛美は30歳になっていた。一年前に結婚して、今は旦那と生まれて間もない息子と三人暮し。裕福とはいえないが、端からみれば幸せな家族に見えるのだろうか?子育てをしながら昔を振り返る日々が続いていた。
もうか12年も前のことだ。南の島の小さな町から首都圏にある短大へ進学した。高校までは真面目でも不真面目でもなくごく普通に学生生活を過ごした。まわりの目もあったし、田舎なのでとりたてて刺激的なこともなく平凡に日々はすぎていた。
そんな生活が徐々にかわって行ったのは短大に進学してからだ。親元を離れての自由な暮らし。人目の気にならない見知らぬ土地。同じような環境の友達とつるみ、毎夜合コンだ飲み会だとはしゃぎ、次第に学校はさぼりがちになっていった。お洒落もしたくてお金がほしくてバイトも始めた。
今思えばこの頃から愛美の人生は狂いはじめていたのだ。その時は一時の楽しさに気付くよしもなかったのだが・・・。