「うわ、ひでぇ臭い!」
城門前につき、大鷲がまた飛び立つと同時に、思い切り顔をしかめられた。
「・・・そう?」
「やばいって。もう何の臭いだかわかんねえもん」
全身にこびりついた血は完璧に乾いたものからまだ真新しいものまである。しかし、獣には人間の臭いだけだと気づかれてしまう。あえて獣の血を塗る狩人もいるんだし、こればっかりはしょうがない。
「ちょ、離れて歩けよ」
「そんなに!?」
「さっきウンコかと思ったもん!」
笑いながらバシバシ背中を叩かれる。シンは昔っからこういう奴だ。
俺とシンは同じ街の出身、同じ年、というよしみでメシや仮眠の時はだいたい一緒にいる。でも、もしこの戦争がなければ、俺たちは話すこともできなかった。
シンは、本名・伊周 心。伊周家はさる筋では有名な家で、初めて見たのは、国の建国1000年記念式典の時だった。国王の席からそう遠くない席で、おとなしく座っていた10やそこらの子供がシンだった。
まぁ、今や国は崩壊してしまったけれど。
『今から城門を開放する』
接続がいきなり入っていきなり切れ、その数秒後、轟音をたてて跳ね橋が降りてきた。
北門はどちらかといえば小さい方で、東門はやたらめったらでかい。そういうわけで、北門からは主に人間や小型獣が、東門からは竜や大型獣が入ることになる。
列がゆっくりと進み、俺たちも跳ね橋を渡る。遠目に見れば真っ白な城も、近寄るとかなりの年代を感じさせる汚さだ。
「今日は、どうだった?」
前を向いたままシンが聞く。
「大分キツかったみたいだけど」
シンのような獣使いなら偵察部隊になれる。だが、俺みたいに肉弾戦くらいしか脳のない庶民は、すぐ第一線だ。死ぬ確率もそれだけ高い。
「んー。まぁ、ぼちぼちだよ?ナリはこんなだけどさ」
言ってマントを翻すと、いくつもの傷。古いのも、新しいのも。
「やっぱり、そっちはキツいよな」
ぽつりともらすシンの横顔は、翳っている。
ぽんとその背中を叩くと、前をむいたまま、小さくうなずいた。
―後ろで、門の閉まる音がした。
戦争は、つい2年前におこった。
その原因は、おおむね次のようなものだった。