あれは彼女が25歳 ヒロが30歳の冬
彼女は精一杯ぼくを愛してくれた
「ちいちゃん重い うざいよ」
ちいの顔色が変わる
ちいはいつも笑顔で、本当に素直な子だ
すばらしく出来た子なのは、きっと家庭環境の為だろう 反面教師とでもいうのか ちいの家庭は荒れていた ちいを挟んでの両親の会話 その日食べるものにも苦労する生活 あどけない幼い弟… すべてがちいの肩にかかっていた
ちいの甘えられる場所
唯一の場所は恋人であるヒロであった
そのヒロに向けられた冷たい目
「いくらヒロくんでも、その言い方はキズつく」
もたれかかられて、それが重かった為につい出た言葉だった
ちいは思いのほか傷つき、ヒロから離れる
怒った事のないちいの言動にヒロは慌てた
「ごめん ちいちゃん言いすぎた 帰らないでいい」「わかってる ヒロくん仕事で疲れてたんだよね」
ちいはあまりにもヒロに優しく、そして甘かった
ヒロのすべてを許し、すべてを受け入れた
唯一の場所であるという思いが、ちいをそうさせた
ちいはもともと、周りの人に甘い面があった
それにはちゃんと理由があったのだが、ヒロがそれを知るのはまだ先の話だ