吸血鬼無想?
その幸せは突然崩れ去った。
母親の正体が村人たちにばれてしまったのだ。吸血鬼を恐れた彼らは、大挙してレイナ達一家を襲った。三人を逃がそうとした父は、二人の目の前で殺された。震えるソフィアをレイナに抱かせ、母は二人に裏道から逃げるように指図した。レイナはその時の母の顔を忘れることが出来ない。
「お母さん!」
少女の悲痛な叫びがこだまする。
「レイナ…ソフィアを連れて早くいきなさい!」
口調は厳しいが、母はいつもの笑顔で二人の背中を押した。レイナはソフィアを抱え飛び出した。
「ガキが逃げたぞ!」
「悪魔を殺せ!」
荒れ狂う村人たちの前に母親は飛び出し、その進路を阻む。その形相は吸血鬼そのものだった。
既に日は沈み、周りに霧が立ち込めていた。レイナ達は裏道を抜け、村境の森まで来ていた。幼い彼女にはわからなかった。優しかった村人たちが両親を殺したのか。なぜ、逃げなければならないのか。
「おねぇちゃん…?私…なんか変…」
ソフィアの苦しそうな声にレイナはハッと気づいた。
「どうしたの!?どこか痛いの!?」
「ちがう…熱いよぉ…体が…血が熱いの…」
ソフィアは体をかきむしり、叫び声を上げた。彼女の体から血が流れる。
「ソフィア…」
「おねぇちゃん…私を…殺して…」
「!!」
突然の言葉にレイナは衝撃を受けた。それでも、ソフィアは苦悶の表情でレイナに懇願する。
「私わかるの…もうすぐ、私は私じゃなくなる…その前に…私を殺して…」
レイナはためらった。次の瞬間、ソフィアは唸り声を上げ、上空へ飛び立った。その姿は、既に人ではなかった。
その後、レイナはイギリスに滞在していた妖庁創設メンバー、薬師院大光明に拾われ、現在に至る。そして、ソフィアを殺す為にヴァンパイアハンターとなり、夜を歩き始めた。