もうひとつのイソップ物語5

つぼみ  2007-04-12投稿
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おそるおそるドアを開けると、そこには熱にうなされぐったりと横たわったきりぎりすの姿があった。
「おい、大丈夫か?」
思わずありは叫んだ。
返事はなかった。きりぎりすはただ苦しそうにうなされている。 もう、きりぎりすのことなど案ずるのはやめようと心に決めていたありであったが、やはりその姿を見てほおっておくことは出来なかった。
ありはいったん外に出ると、水や薬草、食料などを運んできた。そして一晩、一睡もすることなく彼を見守った。
次の朝、目を覚まし驚いているきりぎりすの口に、ありは水を注いだ。そして、甘い蜜をひとさじ口に含ませた。甘い蜜の味が、きりぎりすの口いっぱいに広がった。それは、優しく優しく喉を通り過ぎていく。
その瞬間、きりぎりすの目から涙が溢れてきた。きりぎりすは、想いを言葉にしようとしたが、それは言葉にならなかった。ただただ涙が溢れ、顔をあげることさえ出来なかった。
ありは、きりぎりすが峠を越えたことがわかると、何も言わずきりぎりすの家を後にした。
きりぎりすは、この甘い蜜の感覚を生涯忘れることはなかった。



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