それから長い長い年月が過ぎた。いくつもの冬を越して来たことだろう。ありもきりぎりすも、すっかり年老いてしまった。
ありは昔のように働くこともできず、もう長い間家にこもったままだった。
(もう、長くはない…)
そう感じながら、時折天窓に見える青い空を眺めぼんやりと昔を懐かしんだ。
大勢の家族に囲まれ大いに笑った日々。汗水を流し懸命に働いた日々。すべてがもう、手の届かないところにあった。
その時ありは、かすかにヴァイオリンの音色を聴いた気がした。(風の音だろうか…)
彼は、ふっときりぎりすのことを思い出した。
(今頃、どうしているだろう?今もまだ、ヴァイオリンを弾き続けているのだろうか?)
ありは、急にきりぎりすに会いたくなった。もう一度、きりぎりすの愛したヴァイオリンの音色をしっかりと聴いてみたいと思った。
ありは、ベッドに横たわり今まさに最期のときを迎えようとしていた。ありは息子を呼びこう頼んだ。
「私はとうとう、神様のお迎えが来るようだ。最後にどうしてもきりぎりすのヴァイオリンが聴きたい。ここへ、連れてきてはくれないか?」
息子は急いできりぎりすの元へ向かった。