雨はあがるから<4>

日山 扇  2007-04-12投稿
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それからほんの数分後だった。
信号が青になった横断歩道を、彼女は跳ねるように渡っていた。
まるでスキップでもしているように。
だいぶ元気になってきたな、と僕が感じ、彼女が笑顔でクルリと振り向いた瞬間だった。
横から突っ込んできたトラックによって、彼女は高く撥ね飛ばされ、そして頭から硬いアスファルトに叩きつけられた。

 ゴシャン

物がぶつかって壊れたような音。
同時に彼女の周りに赤色が広がっていった。


僕は彼女が好きだった。
小学校に入って、中学校に行って、高校に上がってからも、ずっと好きだった。
それは恋人同士の好きよりも、傍で見守っていたいという幼馴染みとしての感情だった。
彼女が僕以外の人を好きになっても、彼女が幸せならそれでよかったし、その気持ちを応援したいと思った。
だからあの時彼女がフラれたといって泣き出したとき、何とかしてやりたいと思い、心にもないことだけれど、彼女を元気付けようと必死だった。


世の中悲しいことばかりじゃないよ。
悲しいことはずっと続かない。
悲しいことの後には嬉しいことがあるんだよ。

そんなわけないのに。
そんなの分かんないのに。
そんな確証、どこにもないのに。


あの日からちょうど一ヶ月が経過した。
僕はあの日、彼女が押し掛けてきたマンションを引っ越した。
仕事も辞めて、バイト生活を送っている。
それは別に、彼女のことを忘れようとしたわけじゃない。
ただ、悲しみにばかり浸っていても、嬉しいことは見つけられないと思ったからだった。
気分転換みたいなものだった。
あの日、僕が自分で言った言葉。
それが本当なのかどうかは知らないし、分からないけれど、それが本当になるように、頑張ってみようと思った。
まだ頻繁に、彼女のことを思い出す。
嬉しいことを探しに行こうとした彼女。
残念ながら僕はまだ、あの悲しみに勝る嬉しいことは見つけられていない。
大きな悲しみから立ち上がるのは、結構難しいことなのだ、と思った。

ふう、と昼の空を見上げると、青い空が広がっていた。
「ちぇ、雨、あがったのになぁ」
そんなことを呟いて、僕は秋空の下、嬉しいことを探しに、柔らかい陽射しの中を歩いていった。






終わりです。最後まで読んでくださった方、本当にありがとうございましたm(_ _)m



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