最後の嘘5

カトリ  2007-04-13投稿
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悟と別れてから、由紀はしばらく弾いていなかったピアノを弾くようになった。

別れを告げられても、由紀は何も言えなかった。

言う権利がなかった。

それでも、あの時、またいい友だちでやり直そうと言っていたら?

悟とのセックスを拒まなければ?

バーのカウンターで、一緒にいたいといわなければ?
クラス会に参加しなければ?


悟と関わった全ての事を否定せずにいられなくなっていた。

何もかも自分が悪いのに、最低だ…

夫も子供もいる身で、他の男性を愛しい、と思う事自体、最低だ。

自分を責め続けた。
家族には何も知られていない。
それでも、いっそ誰かに責め立てて欲しい程だった。

その気持ちをピアノにぶつけていた。


12月
あれから2ヶ月ほどたち、由紀の気持ちは少しずつ落ち着きを取り戻していた。
携帯に入っていた、悟の番号、アドレスは消去した。つながるものを自分から切り離した。
きっと、悟の電話を鳴らせば悟は出る。呼び出せば来てくれる。友だちとしてならば。

逆に悟の方から、連絡がくる事はないと由紀は確信していた。

それが悟の優しさだという事は分かっていた。

中途半端に優しくすれば私を苦しめる…
そういう考えを悟はする人だという事は由紀が一番知っていた。
昔から変わらない、悟の優しさ。


今までと変わらない日常。
夫がいて、子供たちがいて、自分がいる。

朝、子供たちと夫を送り出し、自分も仕事に出かける。帰って来て、食事をする。

けれど、水曜日は違っていた。

空白…

時間が2倍、3倍長く感じた。
また、ピアノを弾く

それでもまだ、目を閉じると悟が微笑んでいる。



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