そこは漆黒の世界だった。完全な暗闇。
彼、ツバサ=オオトリはそこに浮かんでいた。
いや、浮かんでいるのかどうかさえもわからない。
自らの手さえも見えない。
だが不思議と恐怖や不安は感じない。
ふと、左手が何かを握り絞めている事に気付く。
(これは…手…か?)
見えないが、感触から人の手、それも女の子の手のようだ。
少し強く握り直すと、向こうも握り返してきた。
それがなんとも嬉しくて、この手の存在が、自分が恐怖や不安を感じない理由だとわかる。
(もっと触れたい…)
その思いのままに手を引く。
そして、闇の向こうにいる女の子を抱き締めるために右手を伸ばす…。