3月の風は、暖かくてまるで春がすぐそこまで来そうな予感がした。
病院の窓を見ていると、こちらに手を振っているのが見えた。
麻衣の彼氏、貴浩だった。
幼馴染みでもある、貴浩と付き合って数ヶ月だった。
貴浩を見つけると、麻衣は笑顔で手を振った。
そんな幸せな日々がずっと続けばいいなぁと何度もそう思っていた。
「学校、終わったの?」
「うん、さっき終わった所だよ」
学校帰りに麻衣の所に来るのが、貴浩のお決まりだった。
「もうすぐ、中間だよね?」
そう言うと、かばんから大量のプリントを出した。
「なに・・これ?」
大量のプリントを見ると笑顔で
「中間のテスト範囲」
「ええ〜」
貴浩の前では、出来るだけ明るくいようと心に決めた麻衣。
貴浩には、言えない病気−・・それは、末期ガン。
2ヶ月前に、貴浩と映画を見た帰りに倒れてそのまま入院している。
貴浩には、”貧血”と偽り入院していると言っているが
迷惑を掛けたくはないと思い、嘘を付いている。
「検査の結果、どうだった?」
プリントを見てる手が止まった。
「血液は、いい結果でもうすぐ退院出来るかな?」
笑顔で、答えると貴浩が喜んだ。
「そうか!退院したら、一緒に映画観に行こうな」
「うん!」
そう言うと、指きりをした。
この約束が叶ってくれればいいと、思った。
貴浩だけには、迷惑を掛けたくはない・・このまま、ずっと嘘を
付いたまま生きていこう。
このまま−・・
貴浩には、言えなかった。抗癌剤治療をすることに。
髪の毛が抜けちゃう事に。
その前に、貴浩とは別れようと思う。大好きなうちに。
私がいなくなる前に−・・