夕凪、何一つ音の無い世界で貴方から愛を教えてもらいました。
―貴方に出逢うまで、私は愛というモノを知らなかった。
与えられる温もりの安堵も知らないまま、他人を拒絶するように生きて来た。
優しい言葉は上辺だけ。所詮偽善で溢れている、と。
背を向けて耳を塞ぐ。
何も感じない心は、真っ白な表面に一つ一つ、刺が生まれ誰も触れる事は無くなっていた。
「悲しいね」
突然、
蝋燭の火のように、灯ってくれた貴方。
言葉を否定しようとも、何度手を振り払おうとも、私の刺に触れて来た。
一言で胸のざわめきが声を上げる。
ざわ、ざわ、込み上げる鼓動は無音を弾いた。
悲しい、哀しい、愛しい…
独りぼっちで、悲しかった。
私は、寂しかった。
信じたくて、本当は耳なんて塞ぎたくなかったけれど。
ねぇ、何で、こんな風になってしまったの。
生まれ変わりたい。
「心はいつも、一つだよ」
だから代わりなんて無いから、リセット出来る筈だ、と。
幼子のように泣く私の隣、貴方はいつも囁くように言葉をくれた。
手を、繋ぐ。
人の手はこんなにも温かいモノでしたか?
こんなにも、愛しいと感じるモノでしたか。
貴方が与える言葉が、
体温が、
私の全てです。
心に満ちる穏やかな風の音、刺を撫でて少しずつ治まりゆく。
前を、見よう。
今度はこの手で、貴方を救えるように。