ヤス#36
「あら、どうしたの?ヤス。具合でも悪いの?今日のヤスは変よ。お客様を連れて来たから、着るものと食事を用意してくれって言ったり…大丈夫?」
「客って、何の事だ?」父の賢三が純子に事情を聞いた。祖父は焼酎を生で飲みながら、ふんふんと聞いているだけだった。父がヤスに向かって話しだした。「ヤス。お前、あの御床島に取り残されてからこの方、様子がおかしく無いか?しっかりしろよ。それに…そのトンカツだが…本当は明日の予定だったんだ。お祝いでな。それを、母さんが、お前が好きだからって作っただけで、肉はまだ沢山ある。ヤスが思っている程、貧乏はしていないぞ。明日もトンカツだ。文句言うなよ。ハハハ」
「えっ!そうなの?お母さん」
「クスッ。貧乏は貧乏だろうけど、そこまては無いよ。ヤス、食べなさい。でも、ヤスは優しい子ね」
「あ…うっ…お祝いって、何の事?」
「お父さんが、来月から役場で働くことになったのよ」
「…父さん、漁師は?」「ああ、休みの時くらいしか漁に出られなくなるな」
「爺ちゃんはどうするの?」
「ワシか。ワシは死ぬまで漁師だよ。他は何も出来ん。ワッハハハ」