健司がいる病室までの道程がとても長く感じられた。
緊張と不安が一気に私の心を襲う。
でも、健司に会いたいという気持ちのほうが強かった。
だから、私は歩き続ける。
病室に着いた。
ドアをノックしようとした手が微かに震えている。
でも、思い切ってノックすると
『はい。どうぞ。』
というなつかしい声が私の耳に届いた。
中に入るとベットから起き上がって私を見つめる彼と、目があった。私はまるで人形のように立ち尽くした。
今、前にいる大切な人の記憶に、私はいないんだ。
なんか・・・バカみたい。
でも、やっぱり無理だよ。彼のことだけは忘れられない。
辛い思いするかもしれないけど、彼のほうが、自分よりも大事。
『お前、前も来てたよな?』
彼が話しかけてきた。『あ、うん。』
すると、
『あのさ、俺、記憶なくなって、もう自分のことさえ思い出せないんだ。お前は誰なんだ?』
と彼は言った。
話し方も声も彼と同じだった。
ただ、違うのは・・・『私、みぃって言うの。あなたの彼女だったんだ。』
私のことを知らないところ。
『・・・。』
彼は考え込んでしまった。
でも、私の顔を見て、『ごめんな。俺、もう思い出せないらしい。だから、忘れてくれないか?』
と、とても辛そうに言った。
私は涙が溢れてしまった。
だめ、泣いちゃだめなのに・・・。
涙と一緒に気持ちも溢れてた。
『嫌なの、忘れられない。だって・・・。』あなたのことが、
『好きなの・・・。』一気に涙が流れる。
私の気持ち、迷惑なのかな?
でも、あなたを忘れるなんて無理だよ・・・。
彼は私を見つめていた。
泣き崩れた私をずっと、ずっと見つめていた・・・。